『その着せ替え人形（ビスク・ドール）は恋をする』をネタバレなしで紹介！

原作者は福田晋一。累計発行部数は1100万部を突破^*1。

以前、コスプレイヤーの人と話をしていた際に「コスプレを辞めないと別れる」とパートナーに言われたと聞き、好きなことを続けたいのに辞めてしまうのは嫌だと感じ、趣味に打ち込んでいる人のことを肯定してくれるキャラクターになるように意識されて描かれたようです^*2。

また、専門の知識が必要な題材のため、各所に取材をしていることが巻末のコメントで明言されています。

作中に登場する雛人形を作られている鈴木慶章さんは「すごく忠実でうれしさしかない」と入念な取材に熱意を感じたことや描写の忠実さに感動したと語られています^*3。

主人公の五条新菜わかなとヒロインの喜多川海夢まりん――

片や自分を出せなくて周りと馴染めずにいる男の子。片や明るくて友達が多く読者モデルもこなす女の子。同じ教室にいるのにかけ離れた住む世界が違う相手。

関わることがなく、触れ合うことがなかった二人が、お互いの「好き」を通して惹かれていく青春ラブコメディです。

登場人物の誰もが相手のことを尊重できる、温かさと思いやりに溢れた作品になっており、オタクの文化や色っぽいシーンが多いにもかかわらずどこか清潔感があるため、晴れやかな気持ちで見ることができます。

ありのままの大切さを教えてくれるストーリーと自然体で飾らないキャラクターが魅力といえるでしょう。

本作の題材はずばり「コスプレ」――

漫画やアニメ、ゲームのキャラクターに扮装すること。髪型や服装で雰囲気だけ似せておしまいではなく、採寸して型紙を起こし一から衣装を作っていく本格派。

メイクの仕方から撮影方法、イベントに至るまで、当事者しか知りえないコスプレの常識や裏側を疑似体験しているようで感興をそそられます。

あるあるや豆知識などもおもしろおかしく盛り込まれているため、知識がある人もそうでない人もどちらも満足できる内容ではないかと思います。特に、初心者と同じ目線で教えてくれるからとても理解がしやすく親しみを感じられました。

誰かしら心に「推し」がいる人にはささる――

衣装を作るたびに二人の思い出が刻まれていく。傍から見ると付き合っていてもおかしくはない距離感で、ときには繊細に、ときには大胆に。

同じ目的を共有して少しずつ深まっていく関係性にも注目してほしい。恋愛としては絶対にブレないであろう一途さがうかがえます。

笑ったり泣いたりといった表情豊かなキャラクターの作画が優れており、色が付いたことでコスプレによる見た目の差異がより顕著になるのは、これぞアニメの醍醐味といえます。

原作の良さをまったく損なわず、忠実かつ丁寧な描画で仕上げられた本作はまさしく「奇麗」な出来というほかありません。